中村一八の知心コラム




仮説力とはなにか

不思議な力

「ありがとう」という言葉には不思議な力があります。たとえば、エレベータで降りる際、私はどんなに急いでいても「開(OPEN)」のボタンを押し続けて、最後の人が降りるまで待ってから降りるようにしています。

そうすると、海外では、ほとんどの人が「サンキュー」であったり、「グラッツェ(イタリア)」であったり、「メルシー(フランス)」であったり、「ありがとう」と笑顔で微笑みかけてくれます。

ところが、日本人の反応は違います。なぜか「すみません」と下を向きながら、視線を合わせず出て行くのです。「ありがとう」も「すみません」も同じ五文字なのですが、受ける印象はまったく異なります。「すみません」といわれると、こちらもどことなく気まずい思いをするのですが、「ありがとう」といわれると、照れくさいような、うれしいような気持ちになります。

ありがとうのパワー

相手に活力を与える言葉

それは「ありがとう」という言葉が、感謝を伝えるだけの言葉ではなく、相手に活力を与える言葉だからでしょう。そのため、私も「ありがとう」という言葉が好きでよく用います。

レストランでお勘定を済ませた後も、スタッフの方に「ご馳走さまでした、ありがとう」です。バスを降りるとき運転手さんに対しても「ありがとう」です。部下がお茶をもってきてくれたり、資料をコピーしてくれたときも「ありがとう」です。自分の至らないところを厳しく叱ってくれた人に対しても「ありがとう」です。

ホテルやレストランなどで自分が「お客さま」の立場になったとき、店員に対してぞんざいな口のきき方をしたり、やたらと威張る人がいますが、人としての品格を私は疑います。たとえ、自分がお金を払う立場であっても礼節をわきまえ、心から「ありがとう」といえる人間でありたいと思います。

言葉にして伝える

家族や一番身近な人ならなおさらです。たとえ何年経っても、毎日料理をつくってくれた妻に対して、夫は「ありがとう」ですし、ゴミをだしてくれたら、妻は夫に「ありがとう」なんです。自分との関係が近ければ近いほど「ありがとう」と口にだすことが大切です。

ところで、あなたのご両親はお元気ですか。いままでを振り返って、ご両親に感謝していますか。あなたは最近、親に感謝の気持ちを、直接口に出して伝えましたか。あなたがいまこの世に存在しているのは、親が生んでくれたおかげです。ご先祖さまがあって、いまの自分があるのです。身近な人こそ、直接言葉にして、感謝の気持ちを伝えることが大切です。

たしかに、普段は気恥ずかしくてなかなかいいにくい、というのもわかります。しかし、感謝とは言葉に出して、はじめて感謝の気持ちが相手に伝わるのです。

人生のなかで、「おとうさん、おかあさん、いままで育ててくれてありがとう」と面と向かって、親に挨拶をするのは結婚式前日だけというのも、なんだか不自然な気がします。誕生日とは、自分を生んでくれたご両親、自分を育ててくれた人に感謝する日でもあります。帰省したときや記念日など、何かの機会を見つけて、いままでの感謝の気持ちをきちんと伝えてみませんか。

自分の心を豊かにする

「ありがとう」には不思議な力があります。いわれた方も、いった本人も、何ともいえない清々しさを感じます。周囲も、人が素直に感謝の言葉を伝えている姿勢を見ると、心を打たれます。あなたは日常生活において、口癖のように「すみません」という言葉を多用していませんか。

ならば、 その「すみません」という五文字を、すべて「ありがとう」に変えてみるのです。「すみません」という言葉には、相手を元気づけるパワーはありません。「ありがとう」には相手の心だけでなく、自分の心をも豊かにする力をもっているのです。


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