中村一八の知心コラム


質問力とは何か

あっぱれAくん

私たちのクライアント(お客さま)の社員に、鮮やかなパープルのスーツや先のとがった靴を身につけるなど、かなり奇抜な服装をして、毎日出社する20代の若手社員Aくんがいました。あきらかに周囲から浮いているのです。

しかし、本人も百も承知の上での"確信犯的"な行動であり、いままで何人もの職場の先輩が注意しても、「自分らしさ」や「個性」を出したいとの一点張りで、その苦言に耳を傾けようとしないのです。見かねた上司が叱責しても、服装に関する社内の取り決めはないはず、と切り返される始末です。

たしかに、服装の社内規定は存在しなかったのですが、それにしてもたいした度胸です。私は内心「あっぱれ」と感心してしまうほどでした。

仕事面においては、持ち前の負けず嫌いの性格と人一倍の努力家で、同期入社のなかでもトップの成績を収めており、なかなか優秀な若手だったのです。

腹落ちの論理

あるとき一緒に昼食をとりながら、Aくんに「万一、知人に不幸があり、告別式に参列するとしたら、どんな格好をするんだい」と尋ねてみました。すると、なにを聞いてくるんだといわんばかりの形相で「黒の礼服です」とぶっきらぼうに答えてくれました。

おしゃれと身だしなみ

続けて「なぜ?」と聞いてみると、「礼儀でしょ」との回答です。 そこで、おしゃれと身だしなみの違いについて、彼に意見を求めながら、私の持論をぶつけてみました。すると、翌週からいままでとは別人のようなダークスーツに身をまとって出社してきたのです。Aくんの豹変ぶりに、周囲は驚きましたが、そのとき私はあることに気づきました。それは、腹落ちの論理の大切さです。

腹落ちの論理とは、「なぜ」という理由づけがしっかりしてあり、論理の飛躍がなく、道理にかなっている考え方です。つまり「なるほど」と思ってもらう道筋です。

後日「なぜ、今までのきみのポリシーを改めたの?」と質問すると、口数の少ない彼は一言「腹に落ちたから」でした。人が行動変容するのは、「知識を得る」からではなく「腹に落ちる」からです。おそらく論理に共感したからこそ、Aくんがあらためてみようという気になってくれたのでしょう。世の中とはこういうもんだとか、こういう場合はこうすべきだとかを「老婆心ながら」と前置きして説教するよりも、きちんと論理立てて話すことの大切さを学びました。

おしゃれと身だしなみは違う

なにをどのように、Aくんに伝えたのかというと、「おしゃれ」と「身だしなみ」は違うという論点でした。「おしゃれ」は自分の好きなファッションを自由に選択することです。

一方「身だしなみ」とは、他人の目に自分がどう映るのかを意識することです。「おしゃれ」は自分本位の考え方であり、「身だしなみ」は相手本位の考え方であるといえます。ビジネスでは、この相手本位という考え方がきわめて重要になります。

すなわち、スーツやシャツなどの仕事着というのは「身だしなみ」を意識するものであり、社会的な服装だということです。自分の好みよりも、自分の置かれている立場や状況に応じて選ぶべきだと、Aくんに諭したのです。

センスではなく努力

「身だしなみ」という言葉の語源は、身をたしなむことに由来します。身をたしなむとは、相手に不快感を与えないように、自分の服装を正しく整えることであり、常に周囲への配慮と深い教養が求められるのです。

このように「身だしなみ」は資質やセンスの問題ではなく、自助努力でいくらでもよりよくできるものです。「おしゃれ」には無頓着な私も、「身だしなみ」は気をつけるようにしています。個性や「おしゃれ」も楽しみたいというAくんには、勤務中ではなく、アフターファイブや休日などのプライベートの時間に、思いっきり楽しむように、助言してみました。

ところで、ニューエアにも服装規定はありません。質問を受けたときは、社員には「身だしなみとは、相手に対する敬意であり、会うべき人に対する礼儀です。どのような服装がより望ましいか、ご自身でご判断ください」と伝えるようにしています。


「ナフキンを使いこなそう」に戻る

ホームニューエアについて業務案内採用案内コラムお問い合わせサイトマップ
Copyright (C) 2002-2017 Newair Corporation.All Rights Reserved.