中村一八の知心コラム


無気力に陥る

学習性無力感

どんなとき、人は無気力に陥るのでしょうか。それは、無気力を学んだときです。「いってもムダ」「やってもムダ」という環境に長く身を置くと、だんだん「気力」が低下し、やがては完全な無気力状態になってしまいます。これを心理学では「学習性無力感」と呼んでいます。「学習性無力感」を理解する上で、あるお魚のおもしろい実験があります。

カマス実験

10匹のカマスを水槽の中にいれ、エサをしばらく与えないでおきます。カマスを空腹状態にさせるのです。次に、水槽の真ん中に透明なガラス板をいれて仕切り、右側に10匹すべてのカマスを集めます。そうして左側に、カマスの大好物である小魚をたくさん入れて泳がせてやります。そうすると、カマスたちは小魚を食べようとものすごい勢いで突進します。

ところが、間仕切りの透明ガラスがあるため、食べることはできません。何度も何度も激突を繰り返しますが、やがてカマスは疲れ果て、次第に小魚のほうに近寄らなくなってしまいます。

カマスたちは『この水槽でどうやったって小魚は食べられないんだ』ということを悟ったからです。「無気力」が学習されたのです。そのとき、間仕切りのガラス板をそっと取りのぞきます。

人はどんなとき無気力に陥るのか?イラスト1

これで自由にいつでもエサの小魚を食べることができます。ところが、一度無気力に陥ってしまったカマスたちは小魚を食べようとはしません。挑戦することをあきらめたのです。驚くべきことに、たとえ、カマスの口元まで小魚が泳いできた時でさえ、反応を示さなくなってしまったのです。

人間も同じです。「何をやったって無駄なんだ」を悟ってしまうと、新しい取り組みを行う気力や挑戦する意欲を失い、それ以上何もしなくなってしまいます。しかも、恐ろしいのは、無気力は組織で伝染してしまうことです。

いったん無気力になってしまった「カマス社員」は、水槽の底にうずくまって反応を示さず、自ら動こうとしないから大変です。

組織でいえば、このガラス板は行く手をはばむ「見えない壁」といえます。組織の硬直化とは、知らず知らずの内に組織内にこの「見えない壁」を作りあげてしまうことです。提案しても聞き入れてもらえない…、言い出しっぺが損をする…、上にいっても反応がない…、出る杭は打たれる…などなど。見えない壁は、人の成長を阻み、人の心まで変えてしまうのです。

解決はただひとつ

では、いったい、この「学習性無力感」に陥ったカマスにエサを食べさせるには、どうすればいいのでしょうか。事実、この実験でも、ありとあらゆる方法を試みましたが、いったん学習性無力感に陥ったカマスはどうやってみても、エサを食べようとしなかったのです。そして気力が復活しないまま、飢え死んでしまいました。しかし、たったひとつだけ方法が見つかったのです。

それは、海で獲れたての威勢のいいカマスを1匹ちゃぽんと水槽に入れてあげるのです。そして、餌を落とします。当然、その元気なカマスはその餌にパクッと飛びつきます。それをぼんやり眺めていた無気力なカマスたちは一様に驚きます。「あれ?なんだ食べられるの?」と思い、恐る恐るエサを1匹食べてみます。そうすると、「何だ?大丈夫なんだ」と気づき、あとは食欲旺盛なカマスたちに戻っていくのです。

魔法のスイッチ

人はどんなとき無気力に陥るのか?イラスト2

このカマスの実験は非常に興味深い示唆を与えてくれます。企業を形成しているのは人であり組織です。無気力感が蔓延(まんえん)している組織に息吹を与え、再び活力を取り戻させるには、過去のしがらみなどの見えない壁を取り除いただけでは不十分です。

その後、無力感に支配されている社員と同じ組織に異質の人材を入れることが大切なのです。異質の人材には、二通りのアプローチ法があります。ひとつめは、社内のだれかが「威勢のいいカマス」に変身することです。「出る杭社員」になるなど、強力なリーダーシップを発揮しながら、率先してそれをやってみせる方法です。

もうひとつは、新しい風を吹き込む人、つまり外部の人材を起用することです。近年、外部の知恵や力を積極活用して経営の立て直しを目指す企業が急増しています。特に抜本的な意識改革や組織風土など企業体質に関わる問題は、当事者である内部の人たちではその本質に気づきにくく変えにくいものだからでしょう。

内部で「変える」ことができなければ、外部へそれを求めるのは当然のことといえます。このように、社内外問わず、新しい息吹を注ぎ込むことこそが、無気力感を払拭させる"魔法のスイッチ"となりえるのです。



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