クレーム対応は、極度の緊張を強いられる繊細な仕事です。クレームに直面したとき、真っ先に心にわき起こるのが恐怖です。それをどう制するかが勝負となります。どんな状況であれ、 クレーム時には、「敬意と感謝と熱意」をもって、4つのステップを慎重に進めていく必要があります。
4つのステップとは、(1)謝罪、(2)傾聴、(3)確認、(4)提案です。
どんな業界でも、どんな職種でも、商(あきな)いをする以上、お客さまからのクレームはつきものです。クレーム対応に費やす労力やコストは相当なもので、たしかに極度の緊張感に見舞われたり、精神的な負担も伴います。できることなら、クレームという仕事には関わりたくないと考えるのがホンネかもしれません。責められたり、怒鳴られたりするのは、誰だってうれしくないものだからです。
しかし、クレームを放置したり、その対応を一歩誤ると、企業イメージを悪化させ、リピーターの可能性を限りなくゼロにするばかりか、そのお客さまの周囲や背後にいらっしゃる未来の潜在的なお客さまを失う最悪の結果となります。企業の存続そのものを危うくしかねるほどのダメージを被ることがあるのです。
それゆえ、お客さまのクレームに対して「厄介だ」「めんどうだ」「うるさいなぁ」と背を向けずに、きちんと向き合うことが大切です。
第一ステップは、何はさておき、まずは「謝罪」です。こちらに非があろうがなかろうが、相手に不快な思いをさせてしまった事実に対して、真摯(しんし)に受け止める必要があります。まずは「申し訳ございません」の第一声が不可欠です。
ただし、謝りさえすればいいというものではありません。 ぼそぼそと蚊の鳴くような声ではなく、はっきりと深々とお伝えすることが大事です。どんなに謝罪しても、心がこもっていなければ、まったくの意味をなさないばかりか、反対に相手の感情を逆なでしてしまいます。
「早く終わらせたい」という気持ちで、とりあえず謝り倒しておけばそれでいいという考えはもってのほかです。「効率的に」「スピーディーに」「手っ取り早く」片付けようとは決して思わないことです。心というのは、隠そうとしているつもりでも、声のトーンや表情、態度に表れます。口先だけでなく、お詫びの言葉に「本当に済まない」という気持ちを込めることが大切です。
次のステップは、「傾聴」です。クレーム時には、相手が興奮して感情的になっている状態がほとんどです。冷静になってもらうためにも、まずは相手の主張にじっくり耳を傾けることです。相手が何に対してお怒りなのか、何を求めているのかを100%しっかり理解しようと努めます。
話が支離滅裂でつじつまが合っていなかったり、脅迫ともとれる発言だったり、同じ文句の繰り返しだったとしても、ずっと聞き続けなければなりません。そこには忍耐が必要であり、非常に辛いものです。
しかし、相手の目を見て、黙って最後まで誠実に聞き続けなければなりません。誤解であったり、相手にも非があった場合、ついつい、「いや…」とか「それは…」などと言い訳をしたくなりますが、ここはぐっと我慢です。話の途中で、話の腰を折ったり、口を挟むことは厳禁です。「否定しない」「批判・非難しない」「言い訳しない」「責任逃れ・責任転嫁しない」の4つ「しない」事項は肝に銘じておくべきでしょう。
とにかく、相手が話したいことを"すべて"話し終えるまでは、聴き役に徹することです。そうすることで、話を真剣に聞いていることが相手にも伝わり、相手の感情の高ぶりを鎮め、平常心に戻すことができるのです。
そして、相手が話したいことを"すべて"話し終えたら、相手が何に対してお怒りなのか、何を求めているのかを復唱確認します。ここで重要になるのは、相手の申し出や要求をのむことが「できるか・できないか」の判断ではなく、相手の主張を100%理解しているかどうかです。
第二ステップの「傾聴」でどれだけ耳を傾けても、ここにズレが生じると、「オレのいいたいことはそんなことじゃない」と火に油を注いでしまう結果となり、二重クレームに発展します。
実はクレーム対応の達人と下手な人との決定的な違いがここにあります。ニューエアの調査でも明らかになったことは、「こちらの真意の理解に努めてくれなかった」「謝罪の言葉がなかった」「あまり誠意が伝わらなかった」「最優先で取り組んでくれなかった」「真剣に話を聞いてくれなかった」など、お客さまからすると、自分の気持ちを察しようと歩み寄ってくれたかどうかに最大の関心が寄せられます。
もっとも大切なのは、相手の気持ちになりきることです。わかろうとするのではなく、なりきるのです。その後、上司などと相談した上で、商品の交換・返金などの代替案を提案します。
ただし、注意しなくてはならないのは、お詫びのしるしとして何かモノやサービスを提供することで、つまり何らかの「おみやげ」を渡すことで、許しを請うという一時しのぎの考えではダメだということです。その人の取り組み姿勢が決定打となることが多いからです。
逆説的にいえば、この部分を押さえておけば、クレーム処理の多くは解決できるというわけです。返金や商品交換すればクレームは解決するといった単純なものではないということです。
できそうで、なかなかできていないことのひとつに、今後の対応策についての提示があります。再発防止のための具体的な改善案です。今後、私(私たち)は生まれ変わりますという「宣言」です。本当に真摯に受け止めているのか、それともその場しのぎで体裁を繕おうとしているのか、相手はその「覚悟」を見抜こうとします。そのため、二度と同じ過ちを繰り返さないことを約束する「強い意思」を相手や世間に示す必要があるのです。
クレームを解決する最大のベースとなるのは、「敬意と感謝と熱意」をもって対応するということです。通常、クレーム対応には誠意が必要とはよくいわれることですが、「敬意と感謝と熱意」はそれ以上に重要なファクターとなります。なかでも、敬意はとりわけ重要です。
しかし、この「敬意」こそ、心の持ちようとしては、難関中の難関といえるでしょう。第二ステップの「傾聴」時、相手の逆鱗に触れるのは、敬意が感じられないときです。敬意を表するとは、「この方は、自分や自社の至らないところを気づかせてくれた素晴らしい方だ」とか「これから師と仰ぎたい」など相手に対する尊敬の気持ちです。
こんな小さなことぐらいで、なにもムキになることはないだろうとか、なんて度量の狭い男だとか、心で思うと相手はすぐ感づいてしまうものです。
話の内容に正当性があってもなくても、相手に心からの敬意を表することです。そして、「ご指摘いただきありがとうございます」という感謝と、あきらめず「何としても解決しよう」という熱意をもって前向きに対処することが何より大切です。
クレームからは実に多くのことを学べます。お客さまから寄せられる苦情や叱責のなかには、自社製品のウィークポイントやサービスの至らないところを気づかせてくれ、改善する絶好の機会となります。
正しく対応すれば、これまで以上の信頼が得られることとなり、お客さまとの関係をより強固なものとすることができます。困難なクレームを完全に解決したあとの充実感・爽快感は格別なものがあります。
会社という看板ではなく、自分の仕事ぶりが高く評価される点にその醍醐味があるのです。もつれかけた心の糸をどう解きほぐすのか、クレーム時こそあなたの手腕が問われるのです。