多くの部下を抱えるようになると、当然のことながら、自分と同じ考えをもつ人ばかりでなく、自分とはまったく異なる考え方をもつ人があらわれます。人はだれでも自分の考えや自分の存在そのものが尊重されると、わかってくれた、理解されたとうれしくなり、尊重してくれた相手に好意を抱きはじめます。
ところが逆に自分の考えが否定されると、敵意をもち心を閉ざすようになります。人は論理でなく、感情で動くからです。
部下の考えがどのような考え方であっても、まずはそれをいったん受け止めるという姿勢が大切です。たとえ自分の考えと違っていても、たとえそれが納得できないものであったとしても、まずは、しっかりと相手を尊重し、相手の考えを受け止めることです。これこそやる気を引き出す源(みなもと)となります。
部下には部下なりの考えがあり、人にはそれぞれさまざまな価値観があります。持って生まれた気質や個性、生まれ育った環境、経験や出会いによってもその人の価値観は大きく変化します。「自分と意見が違う」からあいつは認めない。「自分の解釈と違う」からあいつには仕事を任せられない、という態度では人はついてこないのです。
まずは、「なるほど、君はそういう考えなんだ」と受け止めたうえで、一呼吸置いてから「オレは、こう思うんだけど、どう思う?」と自分の考えを伝えると、受け手の印象もまったく違ったものになるのです。このように、「受け止める」は、ボールをキャッチするかのように、相手の考えをしっかり受け止めるという意味です。
ところが「受け止める」の似て非なる言葉に「受け入れる」があります。「受け入れる」とは認めるということです。これらを混同してはなりません。
極端な例ですが、「実は、ボクは営業中いつも飲酒運転をしてるんです」と部下から告白されたときなど、「なるほど、ボクも同感だよ」と「受け入れ(認め)」てしまうと、後でたいへんなことになります。でも、受け入れる(認める)ことはできずとも、受け止めることならできるはずです。「何いってんだ?」ではなく、「なるほど。君はそう思うんだ」と相手の考えをまずはいったん受け止めるということです。
実はこの「受け止める」行為ができないと、自分の存在や考え方を完全否定されたと思って、内心心穏やかではありません。偉大なるリーダーをめざすなら、相手の存在や考え方を尊重し受け入れながら、それら価値観の違いやズレを認識した上で、前向きに解決策を模索していくべきなのです。
上司に対する最大の不満要因は「理解してくれていない、わかってくれない」にあるということが、私どもニューエアのリサーチでも明らかになっています。しかも、ほめてくれないとか叱ってくれないという上司の行為は、やる気をそぐ決定打にはならないことがわかっています。
しかしながら、部下が上司に対して「理解してくれていない、わかってくれない」という感情を抱き続けると、不安や不満の直接要因となり、急速にモチベーションの低下がはじまります。
事実、叱りもしないが褒めもしないのに、ぐいぐい人を引っ張っていく寡黙なリーダーを私は何人も知っています。背中を見せる率先垂範型なのかといえば、実はそうでもないのです。それでいて、なぜ人を率いることができるのか、それは、ひとり一人の個性や考えを尊重し、受け止めているからです。
「受け止める」というベースが根底にないと、どれだけほめても、どれだけ叱っても、ほとんど相手の心に届きません。逆に、受け止めることができると、無理にほめたり叱ったりすることをしなくても、部下は「ちゃんと自分のことを見ていてくれてるんだな」と安心感をもって仕事に打ち込めるのです。