中村一八の知心コラム


説得と納得は違う

説得とは何か

優れた提案とは、「説得」するものではなく、相手が自然と「納得」するものです。「説得」と「納得」は何が違うのでしょうか。「説得」とは、こちらの考えを相手に理解させようとする働きかけです。ややもすると、自分の論理で相手をねじ伏せるというニュアンスがあるため、とくに商談時には注意が必要です。

人は誰かに「説得」されることを無意識に拒む傾向があるからです。会話に占める「説得」の割合が多くなると、相手は意思決定をさせられたという"押しつけ感"が残ります。「説得」だけでなく、懇願も、 不安を煽(あお)ることも、また誘導も、すべて自分本位の一方通行のコミュニケーションといえます。

押しつけ感が残ると、商売としては失敗です。なぜなら「もうあの人に会いたくない。うまくのせられるから」という警戒心や不信感を相手が抱くようになるからです。

納得とは何か

一方「納得」とは、「そりゃそうだよね」と腹にストンと落ちるような感覚です。こちらの考えを相手の腹に落としてもらうイメージです。人を説得せよ、といわれると、テクニックや話術の力技にもっていくというイメージがありますが、人を納得させよ、といわれると相手を"自発的に動かす"イメージがあります。

「説得」の本質とは"わからせる"ことであり、「納得」のそれは"わかる"ことです。「また買いたい」とお客さまに思っていただくには、何よりも「納得」を与えることです。「納得」は自分の意思で結論づけたものなので、強い満足感が得られるからです。

議論に勝って、商談に負ける

商談に議論は禁物です。ニューエアでは徹底的に論理的思考が鍛えられますが、かえってそれが仇となった苦い思い出があります。事件は、クライアントの役員会で起こりました。ニューエアの新進気鋭、若手のコンサルタントがはりきってプレゼンテーションに望みました。

ところが、相手を説得しようと力めば力むほど、人は「理詰め」に走ろうとします。事実と過去のデータを分析しながら、彼もまた「説得」モード全開で自論をぶちまけたのです。進めていくうちに、今後の戦略について社長とちょっとした口論になったのです。頭脳明晰で負けず嫌いの彼は、ここぞとばかりに、逃げ道を与えず、正論で相手を論破してしまったのです。

一瞬の気まずい沈黙が流れたあと、すかさず社長にこういわれました。「君は議論しにやってきたのか?君のいっていることは正論かもしれん。でも、そんなんどうでもいいこっちゃ。議論でワシに勝っても、最終的にワシが『いらん』ちゅうたら、アンタの負けやで」と。議論に勝って、商談に負けた決定的な瞬間でした。

お客さまの心をつかめないどころか、反感を招き、商談不成立という遺憾な結果にいたったのです。

相手に変化が訪れる

説得と納得は違うイラスト

商談というと、どうやって相手を説き伏せるかという思考が働きがちになります。 いかに自説が正しいかを相手に訴え、何とかわかってもらおうとするのです。しかし 、お客さまをリピーターに変える秘けつは、 議論に勝つことではなく、群を抜く納得感が不可欠です。どうやって説得しようかではなく、いかにすれば納得するかに焦点を絞り込むことです。

「わたしが説得する」と「あなたが納得する」のように、「説得」と「納得」とでは主語が違います。ならば、「わたしが…」を「あなたが…」に置き換えることからスタートです。どれだけ相手の視点に立って考え抜くことができるかが勝負です。

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相手が納得したかどうかは、実は会話の内容に変化が表れます。納得すると、こちらの思いや考えをあたかも自分の意見のように話しはじめるようになります。コミュニケーション力の高い人は、相手の話に耳を傾けます。すなわち、相手が何をいいたいのか理解しようと努めます。商談では、自社や自分の立場が不利にならないように細心の注意を払いながら、相手の言い分を聞き取ろうとします。

ところが、この傾聴の段階で、少なからず影響を受けてしまうのが人間です。たしかに、相手や周囲の影響を受けにくい人もいますが、それでも、次のような五つの要件を満たす人が放つ言葉からは、強烈な納得感が得られやすくなります。

観察眼や洞察力が鋭く思考が深い人、元気でエネルギーレベルが高い人、心に余裕があり、一貫して軸がぶれず、揺るぎない自信を持っている人、自分に対してメリットを与えてくれる人、圧倒的な知識量と実体験に裏打ちされた人などです。自分の持ち味や自分らしさを活かし、相手を納得させるコツを身につけてほしいものです。


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