中村一八の知心コラム


提案力とは何か

商品とは手段

営業で大事なことは、お客さまのホンネや潜在ニーズを聞き出すことです。そのためにも、質問力や傾聴力を磨き、密度の高い商談を重ねていくことが大切です。お客さまのホンネや潜在ニーズをつかみ、「こうすれば、きっとお客さまはお喜びになり、ご注文をいただける」という仮説やシナリオを立てることができたのなら、いよいよ、提案段階にコマを進めることができます。

その提案の際、認識しなければならないことがあります。それは、お客さまはその商品自体を購入するのではなく、その商品を使用することでもたらされる「なにか」を手に入れたいのだということです。

その「なにか」とは、問題解決であったり、付加価値であったり、効果効用であったりするわけです。お客さまにとって、商品とはその「なにか」を得るための手段に過ぎないということを忘れてはなりません。

売り手ではなく、買い手の視点に立つ

たとえば、コンタクトレンズという商品です。実は、提案とは商品を提案することだと、勘違いをしている営業マンは案外少なくありません。お客さまはコンタクトレンズという商品が欲しいのではなく、コンタクトレンズという商品を身につけることによって、視力を取り戻したいという効果効用が欲しいのです。

つまり、視力を手に入れるということは、不自由のない快適な暮らしを手に入れることにつながり、自分への自信を取り戻すことができたり、素晴らしい人生を送ることができるのです。

このように、お客さまは商品が欲しいわけではなく、商品が生み出す「なにか」を得たいと願っています。

エアコンではなく快適性、コピー機ではなく効率化、時計ではなくステータス、デジカメではなく思い出等々です。営業とは、モノ売りではありません。自社の商品がその「なにか」にどう貢献できるのか、営業ではわかりやすく伝える工夫が求められるのです。

納得感の一語に尽きる

提案の段階で、いつも私が心がけているのは、「いかに相手が納得感を得られる提案ができるかどうか」ということです。提案は、相手を説得しようとするものではなく、「いかに納得させるか」にかかっているといっても過言ではありません。

プレゼンテーションの技術やテクニックよりも、何より納得感が重要になってきます。相手の話を聞いていて、「どうにも納得がいかない」と思うときは、その多くは筋道が通っていなかったり、論理展開がうまくいっていないときです。そのため、相手に納得感を与えるには、「論理的に話す方法」を身につける必要があります。論理的とは、順序立てて、段階的に結論を導くことです。

演繹と帰納

論理展開の基本パターンには、演繹(えんえき)的な論理展開と帰納的な論理展開の二つの方法があります。演繹的な論理展開とは、すでに広く知れ渡っている周知の事実をある事象に当てはめて、その意味するところを必然的に導き出す方法です。いわゆる三段論法といわれるものです。

たとえば、「20歳になったらお酒が飲める。Aくんは20歳である。よって、Aくんはお酒が飲める」という論理展開です。すでに知られている価値観と新しい情報を組み合わせて結論を出す演繹的な論理展開は、最も自然な思考方法のため筋道の通った主張をするには最適といえます。

一方帰納的な論理展開とは、「複数の具体的な事例から共通項を抽出し、その共通項から結論を導くことです。たとえば、「昨晩、Aくんは日本酒を一升瓶空けた。一昨晩、Aくんはワインのボトルを3本空けた。よって、Aくんは酒が強い」という論理展開です。

論理と情理

ただし、「論理」 だけに依存しすぎると、お客さまに「理解はすれども納得できない」という気持ちを抱かせることになりかねません。「論理」だけでなく、納得には「情理」も必要です。

たとえば、自分の立てた仮説が的を射ているかどうか、方向性へのズレはないか、お客さまとの認識をすり合わせていくことは「情理」のひとつです。商談中は、お客さまの態度や表情、視線、言葉づかいを観察し、理解度を探ります。納得感を与えられていないと感じたら、話の途中でも、「今までのところで、何か気になる点はございませんでしょうか」とか「このまま説明を続けてよろしいでしょうか」など、こまめな確認が必要です。

こうした情理を尽くすというプロセスはきわめて大事であり、提案が成功するかどうかは「論理」と「情理」のバランスにかかっています。論理的な思考と相手の気持ちに沿ってひとつひとつ紐解いていく誠実な姿勢の積み重ねが、納得感を高めることにつながるのです。


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