中村一八の知心コラム


7つの心理的変更

上司に「ねぎらい」は不要

上司に対してご苦労さまイラスト

労をねぎらう言葉として、「ご苦労さま」があります。これは、自分より目下の人だけに用いる言葉であり、目上(地位の上)の人には失礼に当たるというのが、現代では多数派を占めています。

では、なぜ失礼に当たるのでしょうか。ねぎらいとは、苦労・尽力などを慰め、感謝するという意味です。封建制が発展した江戸時代、家臣に対して大名が、「ようがんばってくれた。ずいぶんと苦労を掛けたな」と労をねぎらう言葉として使われはじめたのが「ご苦労さま」の語源とされています。ねぎらうという行為は必ず地位の高い人から地位の低い人へ行われたのです。

ねぎらいは上から下へ

師弟の世界で考えてみても、師匠が弟子の労をねぎらうことはあっても、弟子が師匠の労をねぎらうのはどうも不自然でしょう。

それゆえ現代社会でも、労をねぎらう「ご苦労さま」という言葉を目上の人や地位の高い人に対して用いるのは不遜・不適切であり、ふさわしくない言葉と考えるようになったのです。

少数派の「ご苦労さま」

文化庁が発表した「国語に関する世論調査(平成17年度)」によると、自分より職階が上の人に対して「ご苦労さま(でした)」を使う人は15%と少数ですが、「お疲れさま(でした)」を使う人は7割近くにのぼっています。

「ご苦労」という言葉の響きそのものがどことなく偉そうに感じたり、部下から上司への「ご苦労さま」を敬遠する会社が多数を占める結果となっているのは、おそらくこうした時代背景にあります。

苦肉の策の「お疲れさま」

このように言葉の起源をたどると、もともと日本には「下役が上役をねぎらう」という概念がなかったことがわかります。ただし、状況によってはどうしても、部下から上司に「ねぎらい」に近いニュアンスを伝えたいという場合もあります。「ご苦労さま」が使えない、つまり日本語に適切な言葉がないとなると、他に何か表現はないかということで、明治時代から苦肉の策として使われはじめたのが「お疲れさま」という言葉です。

「お疲れさま」もねぎらいの言葉ですが、「おかげさまで」などの感謝の気持ちや相手のことを気遣うというニュアンスが強いせいか、国立国語研究所の意識調査(98年)でも、約9割の人が"お疲れさま派"という回答を寄せています。

新明解国語辞典の最新第6版では、「ご苦労さまは目下の者に用いる」としています。明鏡国語辞典でも、「目上の人に対しては、ご苦労さまよりもお疲れさまを使うほうが自然」と記載され、さらに、類語大辞典にも、「ご苦労さまは、目下の人の労をねぎらう言葉。目上に対しては使わない」と書かれています。

相手に不快な思いはさせない

ところが、税務署や役所などでは、来客者の帰り際に「ご苦労さまです」と声をかけている場面が見られます。組織の中で何となくそういった挨拶が慣行化しているということでしょうか。

これに対し、NHKが行った最新の意識調査では「イヤだ」「違和感を覚える」「抵抗感がある」「やめてほしい」「気分を害する」「見下されている」などの回答が4割近く寄せられています。

働く職場では、ルールや慣習に従わざるを得ない場合もありますが、たとえそうだとしても、ただ盲目的に覚えて用いるのと、言葉の語源や意味をきちんと理解した上で使うのとでは、雲泥の差があります。

一番大事なのは、相手に不快な思いをさせてはならないということです。たとえ、多数派を占める「お疲れさま」であったとしても、相手によっては「ん?オレ、疲れてなんかねぇよ」と心穏やかでなくなる人もいます。誤解を招くような言葉はとくに注意が必要です。使用する前にひとこと相手に確認することで、リスクは防げるはずです。

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