仕事上の指導者は上司です。ボスマネジメントとは、その名の通り自分の上司をマネジメントすることです。わかりやすくいうと、それは上司を動かすということです。
部下が自分の仕事がしやすいようにうまく上司をコントロールすること、積極的に後押ししてくれるような状況をつくりあげることです。組織におけるリーダーとは、社長を除けば、すべての人が中間管理職といえます。部下もいれば、上司もいます。
どんな仕事であれ、上司の関与を受けながら進めるのが仕事というものです。そうした意味では、上司をマネジメントすることがいかに重要であるかがわかります。
しかしながら、その上司の関与度合いは部下側からコントロールすることがむずかしいと思いがちで、上司をマネジメントするなどというだいそれた発想にたどり着く人はごくわずかといえます。
では、いったいどのようにすればボスマネジメントができるようになるのでしょうか。それは、いかに上司とよりよい信頼関係を築けるかにかかっています。上司との関係が良好であるほど、仕事もスムーズに流れるようになります。実は、上司との付きあいがうまくいかない理由のほとんどが、「信頼を築けていない」ことに起因するからです。
ボスマネジメントで大事になるのは、上司が替わっても毎回良好な関係を築けるかという視点です。温厚で物静かなA部長ならうまく対処できて、頑固で気むずかしいB部長は手に負えない、ではボスマネジメントができるとはいえません。
相性があう、あわないはさておき、たとえどんな上司に当たっても、いつも良好な関係を築ける人こそ、ボスマネジメントの実践者といえるのです。
ボスマネジメントでもっとも大切なのは、受け身ではなく、こちらから能動的に上司に働きかけることです。イヤな上司や苦手な上司は誰だって避けたいものです。しかし「避け」たり「逃げる」ことばかりしていると、不思議とその気持ちは相手(上司)にも伝わります。関係も余計にこじれるでしょう。
そうかといって、ムリに好きになろうと意識する必要はありません。ゴマをすったり、上司の機嫌をとることに力を注ぐ必要もないのです。要は、仕事上での「信頼を勝ち取る」だけでいいのです。それには、上司としっかりコミュニケーションを取り、ベクトルを合わせることです。具体的には、報告・連絡・相談を密にして、上司の「知らない」という状況をつくり出さないようにすることです。
よく職場で見かけるのは、何かトラブルが生じたとき、部下の「言いましたけど」に対し、上司の「そんなの聞いてないぞ」ともめているシーンです。言った、言わないの水掛け論を避けるには、議事録や報告書などに記録として書面で残すなどの工夫も必要です。
顧客と上司を同時に視野に入れる「複眼視」が欠けていると、真の顧客満足の姿勢を貫けない状況に陥ります。大事なことは、顧客と同時に、常に上司を意識することです。上司の視点に立って、一歩先回りして行動することです。上司の表情や態度から、いまどんな情報を欲しているのかなど上司の意向や気持ちを察知しようとする意識が不可欠です。上司がいつも気にかけていること、上司が忘れがちなこと、上司の苦手なことなど常に一歩先のことを考え、早くやってのけるのです。
そこまでやらないといけないのか…とあなたは思うかも知れません。でも、上司を"お客さま"と見立てて、徹底的に尽くすという考え方に切り替えればいいのです。すると、上司は感心します。いつも安心させてくれる部下に対して、上司は次第に信頼を寄せていきます。 たとえば、上司から仕事の指示を受けた後「わかったか?」と尋ねられたとき、「はい」と答えるだけでは上司に安心を与えられないのです。威勢のいい返事だけでなく、自分のメモを見ながら「念のため復唱させていただけますでしょうか。○○の件ですが〜」と指示内容の復唱確認を常に怠らないことです。信頼とは、こうした日ごろの姿勢の積み重ねといえるのです。やがて、「君がいうのなら、間違いない」というレベルまで絶大な信頼が得られれば、自分の提案が承認されやすくなったり、自分に思いっきり仕事を任せてもらえたりするなど、上司を思うがままに動かすことができるのです。
「部下は上司を選べない」とはよくいわれることです。ならば、上司をうまくマネジメントして、自分の仕事がやりやすい状況をつくりだすしか方法はありません。仕事上の指導者である上司との信頼関係は、自分の成長や将来に関わる重要なファクターです。このように、仕事を進めるうえでボスマネジメントの視点はきわめて重要な考え方といえるのです。