お客さまがお見えになると、欧米一流のホテルマンや日本の老舗旅館の女将が真っ先にチェックするのは服装のどの部分でしょうか。ネクタイでしょうか。スーツでしょうか。それとも、ワイシャツでしょうか。
いいえ、違います。プロはみな、上よりもまず下、つまり靴に素早く目を光らせます。その人の内面や身だしなみに本当に気を配っているかどうかを知るには、その人の履いている靴を見れば一目瞭然だからです。それゆえ、スーツやネクタイ以上に気を遣わなければならないものなのです。
では、靴の何を見るのでしょうか。それは、靴の手入れ具合を見るのです。ところが、身だしなみを考える場合、日本のビジネスパーソンが一番おざなりにしているのが靴です。いくら上質のスーツを着ていても、靴が汚れたままであったり、かかとを踏んづけてよれよれの状態であれば、すべてが台無しです。
靴というものは不思議なモノで、持ち主によって表情を変化させます。手入れがいき届いていれば、より深い味わいを増しますが、そうでないものはすぐに劣化がはじまります。他人から見られてないようでも、意外と足元はしっかり見られています。
身だしなみの要である靴は常にぴかぴかに磨いておくこと。高価であるかどうかよりも、適切かつ継続的な手入れがなされていることの方が重要なのです。
靴(くつ)を長持ちさせるには、同じ靴を2日以上続けて履かないことです。毎日履くと傷みが激しくなり靴の寿命を縮めることになります。1日履けば、最低1日は休ませること。2、3足を順番に履きまわしすると、靴はぐーんと長持ちします。
どんなに高価であっても型崩れするのが革靴の特性ですから、靴を休ませるときは、シュートリー(Shoe tree)を入れることをお勧めします。シュートリーとは、シューキーパーのことで、靴に生じるシワや反りを伸ばし型崩れを防いでくれます。
とくに良質の靴にシュートリーは不可欠で、それには何といっても桜材やブナ材の木製がおすすめです。プラスチック製に比べると多少値が張りますが、長い目でみれば投資に見合うだけの価値はあります。足から出る汗や脂分を乾燥させるという点において木製の方が断然優れているからです。スーツと同じように、靴もローテーションを組んで休ませながら使う事が大事です。
革靴の手入れでとりわけ重要なのは、雨に濡れたあとのケアです。どんなに上質の革靴でも、レザーソール(革底)であれば雨の日に長時間履くと内側に水がしみこんできます。革靴でやっかいなのは、水分を含んだまま放置すると、革質が硬くなってヒビ割れしたり、カビの発生やシミの原因になるということです。
靴の中まで雨がしみ込んでしまったとき、まずはコットンなどの乾いた柔らかい布で、トントンと軽く押さえるように、できるだけ早く表面の水気を拭き取るようにします。
次に新聞紙の上に靴を置き、靴のつま先の部分から、硬く丸めたキッチンペーパーを詰め込んでいきます。つま先には小さめを、履き口には大きめを詰め込むのがコツです。
そのとき、中に詰め込むのは新聞紙よりも、やわらかいキッチンペーパーの方が良いでしょう。新聞紙では、インクが滲んで色移りしたり、変形して型崩れの恐れがあるからです。吸収性に優れたキッチンペーパーは、驚くほど水分を吸い取ってくれます。ただし、ずっとキッチンペーパーを入れたまま(水分を吸い取ったまま)の状態で放置していると、逆に湿気がたまって、カビや嫌な臭いの原因になるので、できる限りこまめ(2〜3時間おきぐらい)にキッチンペーパーを取り替えましょう。
最後の仕上げは、靴底が完全に乾くまでは下駄箱にしまわず、風通しの良い場所に置いて陰干しすることです。皮革は極端に熱に弱いため、ドライヤーで加熱するなどはもってのほかです。
直接日の当たる場所ではなく、日陰で干すなど必ず自然乾燥させるようにしましょう。靴が完全に乾いたかどうかを知るには、ソール(靴底)を見ればわかります。
ソールの乾きが、靴の乾きです。完全に乾いたら、シュートリーを入れ、仕上げに乳化性のクリームを塗っておきます。これは革に脂分を補給するだけでなく、表面に薄い保護膜をつくるためにきわめて有効だからです。