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中村一八のスペシャル対談


プロとは自分が楽しむこと


【中村】羽生さんの登場は、それまでの将棋界のイメージを一変させました。わかりずらく、暗いイメージに受け取られがちな世界の中で、羽生さんは盤を離れれば、いつも明るくさわやか!


【羽生】ハハハハ。ただ、自分たちが指した一手一手のプロセスの中に、驚きや喜びなどがなければいけない、といつも念頭には置いています。自分自身が楽しくなければ、当然、見る方に楽しくは感じてもらえないですよね。


【中村】まったく同感です。コンサルタントの世界でもそうですが、プロにとって一番大切なのは、自分のやっていることが楽しいと思えるかどうかなんです。たしかに棋士にとって、将棋は生活の糧を得る手段でもありますが、羽生さんのようなトッププロというのは、自分自身が心の底から楽しむことによって、世の中の多くの人に活力を与えることができるのだと思います。将棋を始めたときの「楽しさ」や勝ったときの「喜び」を本人がずっと抱き続けていないと、多くの人々に感動してもらえないはずですよね。羽生さんの強さの秘密は、将棋を心底から「楽しめる」心にあると私はみているのです。

対談の写真

【羽生】そんな風でありたい、とは思っています。難解な局面で、いい手を発見したときにはたしかに大きな喜びです。でも、考えてるときはやっぱり苦しいですよ(笑)。ずっと息を止めているような感覚です。


そして、いい手が見つかったら、やっと息が吸えるというような。いい手が見つかるまで、ひたすら苦しみ続けます(笑)。一方で、対局後に棋譜を振り返る「感想戦」なんかは、とても楽しい時間なんです。対局中は、圧倒的に苦しむ時間のほうが長いのですが、その後の楽しい時間のためにがんばれるって感じですね。


【中村】いま辛くても、「将来の楽しみ」があれば「苦しみ」を我慢できる。これって重要ですね。では、伸びる棋士は何が違うのでしょう?


【羽生】負けてこたえる棋士はダメなんですよ(笑)。たとえ負けても、3日ぐらい経ったらへへっと笑って流せる、負けを深刻に引きずってしまわない人のほうが伸びていけるんですね。


【中村】でも、将棋の対局はとても長い。タイトル戦など2日間にわたる長丁場で負けてしまうと、精神的にも体力的にも非常にこたえると思うのですが。


【羽生】たしかにこたえます(笑)。でも、負けたことを一回一回深く受け止めてしまうと、ボクシングでパンチを受け続けるように、だんだん精神的に効いてきてくるんですね。ですから、僕は最近、勝っても負けても次の対局までに極力忘れるようにしています。完全に忘れてしまったほうが、自分としては一番いい状態で対局に臨めますから。


【中村】羽生さんのすごいところは、対戦相手が誰であっても、相手の最も得意とする戦法で勝負されますよね。やはり真の覇者としての「風格」を感じます。いつも決して逃げない。角換(かくが)わりでも、矢倉(やぐら)でも、振飛車(ふりびしゃ)でも、横歩取(よこふど)りでも、何でもござれ。オールラウンド・プレーヤーとしてどんな戦法でも使いこなす。相手は、自らの得意戦法で負けてしまうわけですから、ダメージも相当なものになると思うのですが、これはもちろん意識されていることですよね(笑)。


【羽生】うーん。それは、好むと好まざるとにかかわらず、そうせざるを得ないところがありますね。最近では、オールラウンド・プレーヤーにならないと勝負にならないんです。情報化が進んだおかげで、プロが指した棋譜は、翌日には自宅のパソコンで研究することができます。同じ戦法ばかりをやっていると、対戦する前に研究されてしまって…。


【中村】じゃあ奇襲戦法は通用しない?


【羽生】昔だったら情報が少なかったので、当分の間は通用したかもしれませんが(笑)。年間50~60ほど試合がありますが、よく考えてみると5~6人の対戦者としか対局していないということも多くて。はじめての相手と一回だけ戦うというケースは、非常に少ない世界なんです。


【中村】トーナメント戦やリーグ戦で勝ち上がってきた、勢いのある絶好調の人と戦うわけですね。手ごわい相手ばかり。


羽生善治氏写真

【羽生】ええ。将棋の世界は同じ人たちと何十年と戦い続けますから、スタイルを変えて一度勝ったとしても、2回目からは通用しません。結局、どこかで相手の得意な戦法で戦わなければいけない。お互いに逃げるに逃げられないところはありますね。


勝負の世界では、消極的姿勢になるのが一番危ないんです。まして、今の若手は将棋をものすごく研究しています。それを恐れて避けて戦うことは、逃げるということになります。勝負を逃げてしまうと、気持ちの上でも逃げることになってしまって、勝負に勝てなくなるような気がします。逃げることを意識したり、受け身の気持ちでは、後退がはじまると思うので、怖くなって逃げたくても、まっ正面から戦うことを心掛けています。



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